15人が死亡した長野県軽井沢町のスキーツアーバス転落事故で、バス運行会社が36協定を締結していなかったことが明らかになったそうです。
この事故の起きた要因は様々なようですが、技能不足の運転手に業務を行わせ、しかも度重なる過重労働の中、法定の協定も結んでいなかったということが判明し、一層の企業コンプライアンスの欠如の問題が明るみに出ています。
ここで、締結されていなかったとされる36協定について簡単に解説したいと思います。
36協定というのは不思議な名称ですが、これは労働基準法36条に規定されている労使協定のことを指すため、このような呼ばれ方をしています。
正しくは「時間外労働・休日労働に関する協定書」で、一人でも労働者を使用する事業所は、事業所単位(場所単位)で所管の労働基準監督署に届出る必要があります。
労働基準法では原則として1日の労働時間の上限を8時間、1週間40時間に定められていて、この時間を超えて残業が発生する場合に、労働者の過半数を代表する労働者と使用者の間で、
①残業が必要な事由
②業務の種類
③対象労働者の人数
④1日及び一定の期間における残業時間と休日労働の時間
⑤有効期間
を明確に定め、労使のサインをした書類を監督署の提出して初めて労働者に残業を命じることができるとしています。
この届出を怠った場合、法律上は労働者に対して残業を命令することはできず、違反した場合6か月以下の懲役もしくは30万円以下の罰金に科せられます。
このような協定を結ぶ理由として、残業が必要な内容を明確にし、過重労働を避けるため、一定の期間での限度を決めて労使間で確認をするという手続きをすることが求められているのです。
この手続きについて、簡単な雛形をベースに、事業主が指名したものわかりの良い従業員にサインをさせ、形だけ労基署に届け出ているという会社が多いのではと思います。ですが、この協定にサインする労働者は使用者や管理監督者以外の労働者からの自発的な選出により、労働者の過半数の信任を得て選ばれたものとされており、この協定にサインするということは、この協定の範囲内であれば残業をすると契約していることになるのです。労使双方がしっかりと内容を確認し、納得のうえ締結することが望ましいものです。
この36協定のポイントとして、上記記載内容の④について、1日及び一定期間の残業ができる時間を労使で決められることです。原則としては月45時間、年間360時間を上限としていますが、もう一つ、特別条項として、年間の特定の月で特に忙しい時期は更に一定の時間を上乗せするということができます。例えば、小売業で1月7月のセールの時期は忙しいが、それ以外の月は比較的閑散期になるという業種だと年間のうち2~4か月は特別条項として月45時間にプラスして35時間を上乗せするということもできます。
大事なことは、法律上締結しなければならないというものだけではなく、各企業の業務の繁忙、特殊性を考慮し、また従業員も納得できる形で協定を結ぶというのが重要です。過重労働の問題は先日のブログでも掲載しましたが、このような労務管理のトラブル一つが企業の命取りになることも発生しています。起こってからでは取り返しのつかないことでもあるので、日ごろから法律上の手続きに瑕疵がないか、運用上問題が発生していないか、しっかりと認識する必要性が高まっています。
当事務所では、このような労務コンプライアンス問題全般をレビューするサービスも提供していますので、ご不安な事業主様は是非ご相談ください。