労基署業務を民間委託 規制改革会議が検討
政府の規制改革推進会議(議長・大田弘子政策研究大学院大教授)は、長時間労働などの監視を強めるため、企業に立ち入り検査する労働基準監督署の業務の一部の民間委託を検討する。各地の労基署は人手不足で監督の目が行き届いていないとの指摘がある。委託先は社会保険労務士を想定、主要国に比べて見劣りする監視体制を強化して働き方改革を後押しする。
本日の日経新聞の記事にこのようなものが掲載されていました。
昨今大きく話題になっている、「働き方改革」の一つの処置であり、過重労働撲滅への一助になる施策かと思います。社会保険労務士としては業務領域の拡大でもあり、非常に関心のある内容であります。
ただ、監査法人で勤務した経験がある中で考えると、導入に際しては非常に高いハードルがあると感じます。
まず第一に社会保険労務士の業務は企業の顧問として契約をすることがメインであり、企業の人事労務に関する相談業務を提供する立場です。その中で、企業を監視する立場も持つという場合、その利益相反が必ず問題となります。企業側から顧問報酬をいただきながら、監督官として検査に入るということは当然有り得ないですし、その権限を利用して報酬を得ることも禁止しないとなりません。
監査法人では、法定業務である監査証明業務を行うクライアントにはコンサルティングなどの業務を提供することを禁止しており、監査法人側でも新規の監査契約を締結する際、社内のどこかの部門が当クライアントと利害関係に無いか非常に細かいチェックを行います。これは監査法人が組織化された巨大企業であり、また担当する会社が大企業がほとんどのためできることであって、社会保険労務士は主に中小企業を担当しているため、そのようなチェック機能を事務所内にもたせたり、牽制機能を持たせることは非常に困難と思います。
また第二に、検査担当になる人の質をどのように担保するのかという問題もあります。大手監査法人と異なり、教育や人材投資に多くの時間や金額を投資できる社会保険労務士事務所は多くなく、検査員として機能する能力を担保することをどのようにして進めてくかが課題と思います。
最後に、検査員を行いながら、顧問契約をメインとする業務ができるのかという問題があります。解決策として、社会保険労務士の中でも司法試験のように裁判官と弁護士のようにコースを分けるというようなことも考えられますが、そうすると従来の労働基準監督官との違いがどこにあるのかという問題もあり、難しいところです。
ネガティブな内容にはなってしまいましたが、社会保険労務士としては、企業の労務環境の改善という使命に立ち返ると、非常に魅力的な職務であり、今後この委託事業がどのように進むか非常に興味を持ってみていきたいと思います。
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