昨日のニュースで14年度の賃上げ効果に対する調査が経団連より発表されていました。
この内実について、社会保険労務士として考察をいれたいと思います。
経団連の調査では、14年度の現金給与総額は12年度と比べると11万4千円増えたが、同時に社会保険料の負担が5万2千円増加したため手取り額は6万2千円の増加にとどまったという内容でした。
当然手取りが増えれば納める税金や保険料も増えるので社労士としては違和感はないのですが(上記調査では所得税や住民税のことも加味しているのか不明でしたので大雑把な統計ともとれました)、ここまで影響が大きくなった理由について思い当たるところがあります。
毎月の給与から控除されている社会保険料(健康保険料と厚生年金保険料)は標準報酬月額という、一定のレンジの金額を一定の標準額と決めて、大きな給与の変動がない場合、毎月その標準報酬月額に保険料率をかけて控除するという形をとっています。
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東京都社会保険料料額表
月額給与が20万から30万台だと、2万円の範囲で決められています。例えば17等級の20万円という標準報酬月額の場合、給与が19万5千円から21万円の間の方が該当します。
アベノミクスでの賃上げではベースアップもありましたが、これはそれほど大きくないものでした。例えば給与20万円の人が20万8千円になっても社会保険料は変わりません(残業など他の手当がある場合は除きます)。
では、何故上記のような大きな影響があったのでしょうか?
それは賞与にあると推測します。2003年の4月の法改正前までは賞与にかかる厚生年金保険料は特別保険料ということで賞与額の1%(労使折半)しかかかりませんでした。それが月額の給与に対する社会保険料額を下げる代わりに賞与に月額と同じ社会保険料率を乗じることになりました(これを総報酬制と言います)。しかも厚生年金保険料は2003年の改正時に17.35%(労使折半)だった保険料を13.58%に下げましたが、この13.58%を年々上げていく措置がとられているのです。(現在17.828%)
また、賞与に対する社会保険料は標準賞与額から算出しますが、こちらは賞与支給額面の千円未満を切り捨てたものになります。例えば54万5500円のボーナスがあった場合、54万5千円が標準賞与額になります。
月額給与のようにレンジで決まるものではないので、上記の千円を切り捨てただけの実額にそのまま率を乗じるので、賞与が増えると直接的に社会保険料が増えます。料率も上がり、手取り額が増えた分に直接的に保険料がかかりますので、ダブルパンチとなるのです。
アベノミクスで大きくボーナスが増えたという大企業の方は多いのではと思います。しかし、過去に改正された法的影響により実は一番潤ったのは厚生年金財政なのかもしれません。